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「それは、これまでやってきたことと違うルールがここにはある、という混乱でした。」
(温尻 2010.10.28)

桐野夏生『グロテスク』
(※「Q女子校」=「慶應女子」)

私も和恵も、高校から入学試験に合格して入学しました。ご存じのように、Q女子校は偏差値の高い難関校とされていますから、和恵もさぞかし区立中学では勉強ができたのでしょうね。和恵は小学校のときからQ女子校に目標をQ女子高に定め、そのために勉強に励んできたのだと言ってました。Q学園は初等部から大学までエスカレーター式に進学できます。初等部は男女共学でほんの八十人ほど。中等部からはその倍の生徒を入れます。高校からは男女別学となって、さらにその倍の生徒を取ります。Q学園は誰もが入れるわけではありません。だから、いつの間にか、生徒たちの心に選民意識が培養されていきます。その意識は、入学が早ければ早いほど、大きくなっていくのです。それが分かっているからこそ、お金持ちはこぞって自分の子供を初等部から入れたがると聞きました。祖父と暮らし始めた頃、わたしは憧れのQ女子高での高校生活を夢見て、あれこれと想像を膨らませていました。クラブ活動とか友達のこととか。ところが、現実は、わたしの夢などいとも簡単に砕くものだったのです。それは何かと言いますと、生徒間の差別でした。誰とでも友達になれるわけではなく、クラブ活動にも格付けがあり、主流と傍流がはっきりしている社会だったのです。そのおおもとになっているものは、選民意識でした。

入学式の日のことです。式場となっている講堂で、わたしは、唖然として立ち竦んでしまいまった生徒が大勢いたのを覚えています。高校一年の生徒がきれいにまっぷたつに分かれていたからです。内部からの生徒と外部からの生徒の差は一目瞭然でした。それは、制服のスカート丈の違いだったのです。わたしたち外部から受験して入った生徒は、規則通り、全員が膝小僧を隠すか隠さないかの丈。ところが、半分を占める初等部、中等部組は、皆が皆、太股を剥き出しにしたミニ丈だったのです。それも今流行っているような危ういほどの短さではなく、品の良い紺のハイソックスにぴったり合う程度の、ちょうどいい丈でした。長い細い脚に栗色の髪。耳許にきらっと光る小さな金のピアス。髪を飾るアクセサリーも持ち物もセンスがよくて、彼女たちはわたしが身近で見たこともないブランド品で装っていました。その垢抜けた様子に、新入生は圧倒されてしまったのです。Q女子高の制服を着たい一心で猛勉強をして入って来る生徒だっていたと思います。なのに、せっかく努力して入った学校で、これほど歴然とした差を目の当たりにしては、新入生は呆然としてしまいます。差というのは、ちょっとやそっとの時間では埋まらないものでした。差や裕福さのインフラといいますか、基盤が違うのだとしか言いようのないことだと思いました。じっくりと何代か経て貯められた豊饒さといいましょうか。長い時間をかけて遺伝子に組み込まれた美や裕福さなのです。付け焼き刃は通用しない世界でした。だから新入生はひと目でわかってしまうのです。長いスカート丈にショートカットにしたまっ黒な艶のない髪。いかにもガリ勉風に分厚い眼鏡を掛けた子も多くいました。無論、高い授業料が払えるのですから、それなりに裕福な家の子供が多かったのだとは思いますが、内部性と比べると、明らかに磨き方が違う。ひと言で言うのなら、外部生はださかったのです。「ださい」。Q女子高ではこの言葉が命運を分けていました。
「でも、ださいじゃん」
こう断定された生徒は、勉強ができても、スポーツができても、もう取り返せないのです。高校から入った外部の生徒は皆必死にださく見えないようにしよう、内部生に溶け込もうとしたのです。

入学式が始まりました。わたしたち外部から来た生徒が緊張しているのに比べ、下から上がって来た生徒たちは聞いている振りをしながら、ガムを噛んだり、小さな声で囁き合ったり、不真面目な様子なのです。その間、彼女たちはわたしたちの方を一瞥もしないです。逆に外部の生徒の方は、その様子を見て、次第に緊張が高まってきていました。これからの高校生活の困難を思ったのです。だんだんと顔色が沈んで暗くなっていました。それは、これまでやってきたことと違うルールがここにはある、という混乱でした。わたしの言ったことが、大げさだとお思いなのですね。それは間違っていらっしゃいます。女の子にとって、外見は他人をかなり圧倒できることなのですよ。どんなに頭が良かろうと、才能があろうと、そんなものは目に見えやしません。外見が優れている女の子には、頭脳や才能など絶対に敵いっこないのです。


東京の東端に位置するP区の福祉部保育課で保育園の入園希望者の調査の仕事のアルバイトをしている39歳の主人公の独白が、いったい誰に向けて語られているのかも明らかにされないまま延々と続く、“Q学園”とされる慶應女子の内部進学組と外部組の差別的階級社会の中で、同じスイス人の父と日本人の母を持ちながら他を圧倒する美貌を与えられた妹の怪物ユリコと、ただ真面目なだけで努力は常に報われる報われなければならないと信じる友人の和恵が壊れていく過程を、しかしほんとは主人公が壊れているのかもしれず、そう、つまりこれは東電OL殺人事件をモチーフにした小説なんだけど、怖い!面白い!怖い!

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